第2回オーストリアツアー(6/6・中編)

前半6/4~6/5は、小水力発電所見学に集中しました。去年より規模の小さい発電所を探してもらった事と訪問した時がちょうど水量の少ない時期だったので、地理的条件、気候や河川環境など、日本とオーストリアの違いを差し引いても、参考になる場所が多かったです。訪問先は、ザルツブルグから南東と北東、リンツ市周辺という回り方をしました。

後半の6/6~6/7は、チロル州、フォーアールベルク州へ西へ移動しました。ここから小水力発電だけでなく、オーストリアのエネルギー状況全体の様子を知ろうという企画です。人々の暮らしの中に根づく再生可能エネルギーを知ることで、さらに小水力発電を促進する意義に近づきたいと考えました。

前編=6/3-6/5 中編=6/6 後編=6/7-8としました。

6/6の出発の前に、6/3-5、宿泊したフリザッファ―ホテルの写真を少し紹介します。去年、第1回の時も利用させてもらい好評だったホテルです。

ザルツブルグ市内より郊外の村にありますが、とても快適なサービスでした

 

中庭をはさんで朝食は朝日がまぶしいテラスでも

今日は荷物をまとめて、西のフォーアールベルク州に列車で移動します。なので、お世話になった貸切タクシーの運転手さんが、荷物用キャリーをタクシーの後ろにつけて準備してくれました。これが、超優れものです。現地のマイカーをよく観察すると、この「後ろにキャリーを引くための装置」、何と呼ぶのか分かりませんが、キャリーを引いて回転してもバックしても大丈夫なように、前の車と電気回路がつないであってウィンカーが連動しています。8人乗りタクシー座席にみんなで座って、メイン車のトランクはそんなに広くないので、このキャリーがあっておお助かりでした。

優れももの、キャリー。全員の荷物を積み込みました

 

 

 

 

 

オーストリアは家族、友達、みんなで長い休暇を楽しむ文化がある国です。アウトドアが盛んで、キャンプ、トレッキング、魚釣り、ボート・ヨット、ハングライダーなど、大きな荷物を積んで1週間、2週間、美しい自然のある場所に出かけて、思い切りリフレッシュするのだそうです。そうした時に、こうしたキャリーは必需品。運転手さん曰く「みんな、持っているよ」「これが無いとキャンプに行けないから」と。さらに「日本にはないのか?」「なら、日本人はキャンプに行く時、どうするの?」と聞かれましたけど、(う~ん、困った)。「キャンピングカーをレンタルするかも、、、」と、もごもご返事しましたが、第一、日本では2週間も仕事を休めるないよ、なんて説明できへん・・・。仕事と休暇のオン/オフ環境自体が、オーストリアと日本では違うので、、、と、そんな難しい英語は話せなかったのですが、何ともうらやましい気持ち。と同時に、人口一人当たりの名目GDPは、オーストリアより下の日本だというデータを思い出しました。平日、働く時はすごく集中してハードワークし、休む時はしっかりオフを楽しむオーストリアの皆さん。この切り替えの良さは、日本社会も学ぶことがあるのでは、と思いました。

○6/6(水)  ザルツブルグ州からチロル州に向けて山道をキッツビール市に向けて走りました。予定通りの時間に着くと、同市のシュタットベルケ責任者、コーンベルガーさん、市長の代理でニコレッタさん、管理担当のハイデッカーさんが迎えてくれました。

キッツビール市シュタットベルケ HP  www.stadtwerke-kitzbuehel.at

通された会議室のテーブルの上には、こんな午前中の訪問なのに、おごちそうが山のように!!

飲み物、おごちそう、お土産満載のテーブル

「プレゼンを聞きながらお気楽にどうぞお召し上がりください」と言われても、(もぐもぐしながら聞くのは、失礼では、、、)と、私以外の参加者もあまり口にしなかったので、残してしまい、これもまた失礼なことになってしまいました。ご準備いただいシュタットベルケの皆さん、ごめんなさい。たくさん記念のお土産もいただきました。ありがとうございます。

キッツビール市の人口は8300人、来客者が1万人ということで、合計約2万人が暮らす、滞在するという想定でライフラインが構築されています。1960年代、往年のスキープレイヤー、トニー・ザイラーさんの名前はご存知ですか? ここは彼の故郷であり、日本との縁は、山形市と姉妹都市なので定期的に交歓をしているそうです。今年も19人で山形、東京、広島に行く予定だと言っていました。コーンベルガーさんのプレゼンも開口、「ミナサン、ヨウコソ、オコシクダサイマシタ」と、日本語で歓迎してくれました。

プレゼンのスライド、モニカさんのドイツ語通訳をはさんでやっと分かるかな?

同市のシュタットベルケは、市議会が100%持っているタイプのものです。行政、市議会、シュタットベルケ委員会という構造の中で、水道・電気・下水・ケーブルTV・インターネット・市内バスを運営しています。

 

シュタットベルケの発祥の元や、やはり水力発電でした。廊下の壁にあった古い写真と当時のチラシを入れた額縁を持ってきてくれて、「1893年、この水力発電所から電気が生まれました。ここに”6/8はあなたのランプを持ってきてください、これから電気をあげます”と書いてありますよ」

1893年と言うことは明治26年。蹴上発電所が運転開始したのが明治24年、1891年。ほとんど同じ時期に、オーストリアでも日本でも、水力発電所が建設されて、地域の人々に電気を配り始めたことが分かりました。(やっぱり、水力、いいね)と秘かに納得。

記念すべき初めての水力発電所、稼働のお知らせ(1893年)

市全体で年間に必要とされる電気総量は約90Gwhだが、シュタットベルケで発電できる量は、約75Gwh。足りない分はチロル州20ヶ所を統括する「TIRAG」から、あるいはオーストリアの民間配電会社のエンパッハ社、ドイツ、ライプチッヒにある電力取引所などから買うとの事でした。

 

市が保有する4つの水力発電所のうち車で行ける範囲の2ヶ所を案内してもらいました。1ヶ所目は、水道施設の中に設置したペルトン水車を見学しました。

市街地から約100m登った所にある水道施設の中にある水力発電を見に行きます。

施設内の部屋にこじんまり設置された水力設備、音があまりうるさくない
こちらは上水の貯水タンク。大事な市民の飲み水は山からの湧水です

 

 

 

 

 

何より日本との違いは、水への意識の違いです。日本では、「上水の<途中>に発電装置を設置して、発電した後の水を人間が飲むなんて」と、まるで発電に利用した水は汚れているかのように嫌う傾向が上水管理者にあるように聞いていますが、こちらでは「そんな事、ぜんぜん、気にならない」との事でした。

実際、ツアーを続けている中での食事風景の時、あんなに美味しいレストラン室内でも、ハエがぶんぶん飛んでいるし、大きな樹の下の野外テラスでは、上から花の雄しべか雌しべかがはらはらと、降ってくるしで、ドリンクの上にコースターでふたを置かないと、雄しべまで飲んでしまうはめになります。

しかし、オーストリアの皆さんは「これで普通、自然なんだから」と気にしていません。こんな自然への感覚の違いが、上水施設での小水力発電を当たり前にしているのかも知れないと感じました。

もっと高い位置にある上水施設

続けてもう一つの上水施設、水力発電所を見せてもらいました。

3つ並んだ水車と発電機

 

 

 

 

 

紫外線で水道を消毒するらしいです

 

 

 

 

 

ドイツやオーストリアのエネルギー事情を支えるシュタットベルケの仕組みがすべて分かったわけではありませんが、京都大学の諸富先生がある講座で「シュタットベルケでは収益プラス事業であるエネルギー部門で利益を出して、マイナスになりがちな交通網サービスを補てんしている所が多い」とのお話しを聞いたので、同じ質問をコーンベルガーさんに聞いてみると「はい、その通り」でした。市民の足を確保するという事は行政にとって大事なサービスですが、どこの国でも交通部門だけで収益をあげるというのは難しいことのようです。どんな山の上にも家があって各家庭は、雪道でも登ることができるマイカーをお持ちですが、それでも市内を循環する交通網をきちんと維持運営していく事は、街そのものの動脈静脈を健全に保つ意味があると思いました。この話は、翌日の街、フェルトキルヒ市でも感じたことです。

次の見学先は、当協議会賛助会員(有)イー・セレクトさんの提携先であるビショファー社が設置管理している、山の上のチーズ工場、レストラン、ペンションに向かいました。

緑のポロシャツを着た、チーズ工場の若き経営者と隣は3日間お世話になった運転手さん

チーズ工場はかなり山の上。下のパーキングでキャリーを分離して、案内役のビショファーさん先導で登りました。

 

 

 

ビショファーさんはこのタフな車で発電所を回るようです

まず最初にチーズ工場の見学と説明を聞かせてもらいました。ここは実際に牛を放牧しながらその牛から搾乳した新鮮な牛乳からチーズをつくっています。なので、工場もレストランもペンションも春から秋までの放牧期間だけのオープンです。そうした限定的な電気の使い方も、ここが「独立電源」として成立している要素ではないかと思いました。

※冬の間でも雪のトレッキングを楽しむ人達のために、トイレ施設に必要なだけの電気は年間、供給しているとの事です。

ガラス窓の向こうの工房と保管庫。
今日、カットしたチーズ(名前は忘れました)とハム、ベーコン、サラミなど

パンを焼く香ばしい匂いがふんわり漂っていました、本当に美味しそう 

 

 

 

 

 

発電所建屋はチーズ工場のそばですが、軽くランチをいただいた後に、取水ポイントまで車で登ることに。ここから更に200m以上も上なうえに悪路の坂道で、ちょっとドキドキしました。

この山道を登りました

この小さな谷間が取水ポイント、先を歩くビショファーさんと彼の娘さん、モニカさん

 

 

谷間の水と昔利用していた1号取水の水もパイプで足していました。

 

建屋はガラス張りになっていて、トレッキングやチーズ工場訪問者にもよく見えるようになっています。上部には小水力発電所についての解説ディスプレイがあって、誰も居なくてもここの発電所のことが分かるようになっています。ビショファーさんご自慢のショールーム的モデル発電所です。

建屋の前、右端にビショファーさん
落差で稼ぐペルトン水車

 

いただいた資料によると、

水量=50L/s

落差=268m 出力=105kW

 

 

「独立電源」は発電する量と使う電気とのバランスをどうとるのかが課題となります。ここの発電所は、使う側の量に合わせて「デフレクター」を調整して出力調整をしているという、かなりマニアックな方法だと言うことでした。

 

夜にはフェルトキルヒ駅に到着しないといけないので、一番近い、特急の停まる駅、ウェルグルまで降りて、そこで貸切タクシー、運転手さんとお別れ。フォーアールベルク州へ移動しました。

改札口がなく、すぐにホームに入れるオーストリアの駅です。ここでも指定車両の場所が分からない問題が・・・と思いきや、ホームに1等、2等、号車の図解の掲示板がありました。「そうそう、これが無いと分からないよね」と、初日の特急車両探しで慌てたことも笑い話に。

車両構成を示す図解、これがチューリッヒ駅になかったのですよ

夕方、フェルトキルヒ駅に到着して、宿泊先のランクウェル村のホテルに無事到着しました。(後編に続く)

 

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